約束事のメリットとデメリット

指導において「選手の状況対応力」とはどれほど重要なのだろう。 今回の記事ではダン・ライト氏(UEFA ’A’ライセンス)が語る、コーチングは白黒はっきりしたものではなく、選手たちがそれぞれ探索しながら歩み進められる柔軟な枠組みを創ることだという考えを紹介しよう。

サッカー指導の現場では「約束事」を利用するコーチが多い。きっと、選手に自身のサッカー理解を伝える際に、この方法がシンプルでわかりやすいからだろう。しかし、それは実は危険なのではないだろうか?

 

 

2−3週間前に、私はツイッター上で4−3−3フォーメーションにおける、サイドバックからのパスの選択肢に関してのディスカッションを立ち上げた。このトピックでは多くの意見交換が生まれ、多くのコーチたちが、様々な”絶対的な答え”を提案してくれた。

人間として私たちが原理原理や絶対的な道理があることを好ましく感じるのは、それが複雑な状況を単純化してくれるからだろう。ヒトが進化してきた中で、このような「ルール」が生存や、本能的な素早い判断を支えてきたのである。

例えば、子供の時に、熱いものに触れてはいけない、や、道路を渡るときは両側を見ろ、そして、倒れそうなときは手を出して体を守れ、といったことを学習し覚えてきた。

このようなルール化や約束事作りは、我々に様々なことを、短時間で大きなインパクトをもって教えることができる。だから確かにとても大切だ。こういった約束事は単純でわかりやすく、そして絶対的と言える。

 

ただ、我々は一体どのように、それこそライオンを飼いならしたり、M25(訳注:ロンドンの環状高速道路でとても事故の多いことで有名)をうまく通り抜けたり、そして「サッカーのプレー」を教えることができるのだろうか。 

局面がダイナミックに変わり、また大きな多様性がある中で、複雑な課題をクリアするためにも、絶対的なルールはやはり効果的になる部分は確かにある。ただどうしても、「状況次第」になってしまうのである。

 

 

私が小さな頃には、「絶対に自陣ペナルティーエリアを横切るようなパスを出すな。」と教えられた。きっとプレーにおけるリスクと効果ということなのであろう。そのパスによって得点につながることよりも失点につながることの方が多いとコーチが考えたのであろう。

ただこれはコーチの価値観をもとにした「意見」であり、「真実」ではない。もちろんそれがサッカーのルールなわけでもない。このような例は他にもいくつかもある。「シンプルに向いている方向の選手へパスを出せ」、「ゴールが見えたらすぐに打て」、「触れる距離まで寄ってマークしろ!」毎週のように聞くこのような声かけは果たして選手を助けているいるのだろうか?

 

サッカーにおいても、普段の生活と同様、絶対にしないといけないこと、そしてしてはいけないことはある。しかし、サッカーではその間(グレーゾーン)に振り分けられることの方が、よっぽど多くあるのだ。サッカーという競技を分析し、その土台に不確実性とランダムな状況変化が根ざしていることを見つめた時、コーチが使える「絶対に」という言葉はとても少ないことに気がつくのではないだろうか。

 

 

もしあなたが「うちのチームではペナルティーエリアを横切るパスは絶対出すな」という約束事を作ったとしよう。確かにそういったパスをインターセプトされて失点するということはなくなるかもしれない。とてもシンプルで、メリットの方がデメリットよりも大きな約束事だと感じるかもしれない。

 

しかし、そこで失うものはなんだろう?

 

チームとしてピッチの幅全体をしっかりと使ってビルドアップする力が養えないかもしれないし、GKやDFのボールタッチの機会が減ることもあるだろう。さらにいうと、チームとして中盤を飛ばしてしまうプレーにつながるかもしれない。そうなると関わらない選手が増え、個々の選手の成長を妨げる可能性もある。

ただ、もしかしたら最も大事なことは、ミスをし、そしてそこから学ぶことで将来自分でその時々の状況に応じて判断する学習機会を取り上げてしまっているのではないだろうか。

もし我々コーチがグレーゾーンを取り払ったり、解決方法を「与えて」しまった場合、我々はサッカーを学ぶ道のりを壊してしまっているかもしれない。

約束事を設定し、コーチたちのサッカー感をより早く、シンプルに教えようとしても、実際のサッカーは往々にして複雑で整っていないものなのである。

だからこそ我々コーチは約束事を作る際に

  • なぜこのようなルール決めを求めるのか
  • その際のメリットとデメリットはなんなのか
  • 実はそれは逆効果になってしまうのではないか

といったことを常に念頭に置いておかないといけないのである。

 

 

私が思うにコーチである我々大人が約束事作りに頼るのは、そのことで選手たちがコーチがかつて経験したトライ&エラーの過程を省略できると考えているからなのではないだろうか。そして、それはもしかしたら実際に選手の助けることができるかもしれない(時間も節約できる?)。

ただ、同時に選手たち自身の問題解決機会にコーチが加わってしまうことになる。そして試合での勝利につながった場合、コーチのエゴを助長することにもなるのではないだろうか。

 

約束事を作る効果は迅速でクリアである。しかも簡易で、また多くの選手に対して同時性がある。そして確かにサッカーには「決定的に」確実だと言えることもある。

しかしそれでも不確定要素が圧倒的に多いのである。多くの判断は選手によって様々な要素(得失点・目の前の相手・スペース・プレッシャー・身体的要素・性格・サポートなどなど)が考慮されて下される。

それでもコーチによっては育成年代のサッカーではほとんどのそんな要素はそこまで重要でないという人もいるかもしれない。例えば、この年代のチームでは、後ろの選手がボールを持っている時は相手の状況に関わらず、しっかりとビルドアップしてプレーするべきだという人もいる。それこそ味方FWがハーフェーライン付近で相手DFと1vs1になっている状況でもである。

この考え方にはグレーゾーンがなく、極端すぎはしないか。

 

そのコーチはいつ「他のアイデア」を選手たちに考えさせるのだろう?そして例えば、いつGKが速攻や遅攻といった戦術的な判断に応じられるショートパスやロングパスといった技術にフォーカスできるのだろうか。そんな考え方は現実的ではないというのだろうか?

もし、子供達に常に「触れる距離でのマーク」を教えていた場合、選手たちはいつ数的不利の中での守備の仕方や、くさびのパスコースを切りながらのプレーなどができるようになるのだろう。

 

極端に白黒はっきりしたアプローチではロボットのような選手が造られ、クリエイティブな問題解決能力のある選手はでてこない。そんな考えからコーチたちの中にはストリートサッカーのようなランダムなサッカー環境こそがガスコイン、ジョージ・ベスト、そしてクライフという異端な才能を生み出した大きな要素だったという人もいるのだ。そして、ロナウディーニョやコウチーニョのベースにはスピードや技術の要求が高いフットサルがあるとも言われている。

 

 

私にとって、サッカーの単純化(=約束事作り)と人が学習するプロセスの関連というテーマはとても興味深く、また様々な指導のアプローチを考えさせられる。

コンストラストのはっきりした2つの例として、Aコーチは約束事が明確なアプローチ、Bコーチは状況判断に重きを置いたアプローチをするとしよう。彼らの違いは一体どのような差を生むのだろうか?練習メニュー作成、実際の練習でのコーチング、試合での指導、指導者講習会への姿勢、長期的な選手育成プランの考え方・・・

 

では約束事をつくことは逆効果なのだろうか?それはそれぞれのコーチの哲学によるのだろう。片方の端には「ゲームこそが最良の指導者」という考え方があり、もう片方の端にはコーチが指示の声を叫び続けてコントロールする考え方という一本の線があるとすると、その間のどこにそれぞれのコーチが立ち位置を見つけるかなのである。「約束事」もつまりは一意見なのである。

 

私自身もプレースタイルを構築する上でいくつかの約束事を作る。選手にとってはやはりわかりやすく、こちらも教えやすく、さらには伸び悩んでいる選手にポイントを思い出させやすい。

そんな中でも約束事を作るときにはいつも注意していることがある。

  • 一切、「絶対に・・するな」や「どんなときも」などという言葉を使わない
  • 多くの場合「考えないといけないのは・・・」や「もし・・・だったら・・・」を含む。

 

私は、コーチたちはできるだけ多くグレーゾーンをセッションのうちに組み込むべきだと思っている。サッカーとは個々の勝負とグループでの勝負の組み合わせである。そして練習における反復練習はそれが反復練習だと思えないような形にする必要がある。つまりそこで繰り返し取り組まれるのは、選手たちが見て・感じて、状況判断するということなのである。

 

これは決して選手に対してあまりに多くの情報を一度に詰め込んだり、刻々と変化する状況の中で選手を放っておいたりする、ということではない。コーチが公園での遊びのようなセッションを組んでボールだけ渡し、座ってリラックスしていればいいという意味ではないのだ。

 

私が言いたいのは、選手たちに大きな枠の中での自由と選択権を与えようということなのだ。サッカーとは複雑なものである。だからこそ状況や展開ごとに「どんなプレーをより多くする必要があり、逆にどんなプレーの数を減らす必要があるか」をしっかりと設定し、その上でより複雑なグレーゾーンを探索させたいのである。

 

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Tags: コーチング哲学  コーチの心構え  
By: Admin
Posted: 2017年05月05日 16:25

Reference: COACHING IN THE GREY

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