進化を求められるサッカーコーチのあり方

意識しているかどうかに関わらず、我々はすでにそして確実に「新しい現代サッカー」の時代に入っている。ビューティフル・ゲームと形容されて、幼いころから生活の側にあったサッカーというスポーツは今では世界規模のビジネスになっている。 サッカーとそれを取り巻く環境は多くの面で変化を遂げてきたが、この5年間は特にそれが著しい。

世界中のマスメディアは24時間サッカーを流し続け、数百ものウェブサイトや大小さまざまなテレビ局は全てのトップクラブをピッチ内外関わらず追いかけている。またソーシャルネットワークを使って意見ができるようになったファンはクラブの株主のように振舞っている。動くマネーも数倍となっており、移籍金や契約金、そして保証金は桁違いに膨れ上がり歯止めがきかない。サッカー界では常に成功が要求され、関係者へのプレッシャーははかり知れないものとなっている。

 

中でも、最も大きな変化はサッカー選手自体にあるのではないだろうか。今トップで活躍する選手達は、最先端のスポーツ科学と充実した練習環境により、かつてないほど速く、力強く、そして戦術的に長けたエリートアスリートなのである。現在のプロサッカーでは、質とスピードが驚異的なレベルで両立されている。

そしてもちろん、こういった変化はプロを目指す全ての年代に影響を与えている。

 

このようなサッカーの進化によって、コーチ達に要求されるものも非常に大きなものとなった。何年か前までは、ヘッドコーチ(監督)といえばボスであり、威圧感とある程度の恐れを含んだ権威でチームをまとめてきた。しかしながら、もしかしたらアレックス・ファーガソンがこのタイプで成功した最後の監督となるのかもしれない。

現在のコーチ達は、より多面的役割を担う。チームマネージャーや戦術家、トレーニングコーチに心理学者、それにフィジカルトレーナー、また時にはカウンセラーとしての能力も求められるのだ。

 

現代サッカーを10年前、20年前のコーチング方法では指導できないのには多くの理由がある。身体能力の進歩によって、プレースピードは大幅に速くなり、これにより戦術的そして技術的な面で違いが生まれた。速いプレースピードのために、選手がボールを持つ時間はより短くなり、結果的にボールを持っているときも持っていないときも個々の選手が素早い状況判断をしなければならなくなっている。さらに精神的な面では集中力、自信それに相手を倒す強い気質などはトップ選手になるために現在、特に重要視されている。

このような変化の中、サッカーのトレーニング内容も大きく変わることとなった。

試合で必要な選手の能力が技術・体力・戦術・精神力の4つに分けられるとすると、現在サッカーのトレーニングではそれらを同様に要求するべきとされる。つまり「現在のサッカートレーニング」とは試合へ繋げられるものであり、そして勝つための「習慣作り」なのである。 

「フィジカル能力」の1つの側面のみを酷使して疲れさせるような、かつての体力トレーニングは時代遅れとなり、「ウォークスルー」や「シャドー・プレー」と呼ばれるただ単にチームの戦術的動きや手順を確認するための練習メソッドも大きく省かれている。

現代サッカーに対応するためには全てのトレーニングが試合の刺激(現象)を再現している必要があり、そのためには、上記の4つの能力への要求が盛り込まれている必要がある。試合に関係づけられたトレーニングを速いテンポで行うことでこそ、選手達は練習と試合の間のリンクを見つけることが出来るようになる。

 

また、指導者の選手への対応のしかたにもかつてのものと違いがある。少し前まで行われていたような「大声で叱る」声のかけ方では効果が少なく、逆に選手の士気をさげてしまことが確認されている。それよりも指導者は選手のパートナーとして、常に自身のビジョンを選手に理解させようと努力することが成功のために必要になった。マヌエル・ベレグリーニ(マンチェスターC)監督がジョー・ハート*をこのあと数試合出場させず、数週間後に再度チャンスを与えるだけでは、今シーズン彼の良さを出すことはないだろう。選手に、コーチは彼らを支えるためにおり、決して対立する立場にいるのではないということを理解させることが重要なのだ。(*訳注:元記事執筆時前にGKのジョー・ハート選手は失点につながる大きなミスをしていた。)

 

高いレベルのプレーを構築し熟成させ、さらに勝利のための文化や雰囲気をチームに植えつけられる指導者こそ成功により近い。

コーチをしている限り、例えそのチームが億万長者のオーナーに支えられたチャンピオンズリーグチームでも、もしくは育成年代のローカルクラブでも、共通して選手と絆がつくれ、よいコミュニケーションがとれなくてはならないのだ。

 

プレミアリーグが始まって3ヶ月ですでに2人の監督が解雇されている。(訳注:記事執筆時点)

両監督とも同じような理由だった。パオロ・ディカーニオとイアン・ホロウェイの両者は共に「控え室での信頼」を築けなかったことが原因となって選手達がその信念についていくことが出来なかった。

もし、選手達がコーチのセッションに価値を見出せなかったら、チームをコーチの影響下に置くことはほぼ無理であろう。それは選手と友達になるということではなく、選手からの人気を得るということでもない。しかしトップコーチ達は選手達と常にコミュニケーションをとり、彼らの素直な信頼を勝ち得ないといけないのだ。

「いま」のサッカーに関わるコーチに求められる課題とは、自身のトレーニングや指導方法を通じて選手達から理解や共感を生み出し、そして求めるプレーレベルやパフォーマンスを実現できるか、ということである。

練習で先日したことをただ繰り返す、もしくは5パーセントだけ改善する、などは成功のための方法ではもはやない。現在のサッカーではコーチは選手達がそのアクションに意味を見出せるようにしなければならない。そしてこれには結果よりも哲学や信念こそが重要視される必要がある。アーセナルやバルセロナそれにボルシア・ドルトムントなどはその良い例であり、彼らはキックオフ直後でも、終了直前でも、得点状況に関わらずその信念を貫いている。

 

現在トップで成功を収めているコーチ達は改革や変革を受け入れられる者たちである。往年のイタリア人名監督アリーゴ・サッキ氏は言った。

「人類が存在する以上、サッカーでは何か新しいことがおこるはずだ。でないとサッカーは死んでしまう。」

 

変革の時はいつもすぐそばにある。ペップ・グアルディオラ、ブレンダン・ロジャース、アンドレアス・ビラスボアス、ユルゲン・クロップそれにジョゼ・モウリーニョといったトップコーチ達はサッカーを次の時代へ推し進める革命の担い手だ。高価なスーツや試合後のメディア会見などに惑わされてはいけない。彼らには確固たる指導方法論やチームマネージメント技術、それにリーダーとしての資質が身についている。そしてそんな資質とはプレーヤーを中心に考え、いつも進歩を目指すサッカー哲学によってのみ育まれるものなのだ。(了)

 

 

著者(UEFA Aライセンスコーチ)のツイッターはhttps://twitter.com/GaryCurneen

著者の刊行物の紹介はこちらよりどうぞ。http://garycurneen.com/book

友だち追加

Tags: 全年齢対象  コーチの心構え  グアルディオラ  モウリーニョ  
By:
Posted: 2014年01月07日 12:53

Reference: THE EVOLUTION OF THE MODERN COACH

トップページに戻る