クーパーテストとサッカー

現在サッカー界のさまざまな現場で採用されている「クーパーテスト」、今回はその誕生と実施の際の注意点を紹介しよう。

サッカー選手のパフォーマンスを語る上で、フィットネス(体力)の要素が重要な位置を占めるということは確かである。シーズン前には多くのチームで様々な体力テストが実施され、選手のフィットネスレベルのチェックが行われている。このうちのひとつがクーパーテストである。クーパーテストでは、2マイル(訳注:およそ3200m)の距離を12分以内に走りきれるかどうかが見られる。選手にとっては、12分間で走りきれなかった場合、持久力が足りていない、そしてシーズンの準備ができていないと判断されるため、テストとしては選手から嫌われているといってもいいだろう。なお、完走できなかった選手にはその後「次回完走するための準備」のトレーニングが課されることもある。

 

ところでこのクーパーテスト、いったいどのような経緯を経てこれほど広くサッカーの現場で採用されることとなったのだろうか?そして、クーパーテストの結果とは実際には何を示しているのだろう?

実はクーパーテストの成立とサッカー界における浸透にはその過程の中で興味深いつながりがある。しかしそれと同時にサッカーコーチはこのテストを実施する前にこのテストの限界についても知っておく必要があるだろう。

1960年代、運動生理学者たちはいかに「体力」が「健康と疾患」に影響を及ぼしているかの解明を始めていた。そして心肺能力が低い場合、いくつかの循環器系疾患を患うリスクが高いことをつきとめた。

そして、1967年に最大酸素摂取量(VO2max)が心肺能力を測定する際の基準となった。VO2とは1分間に吸入する酸素の量であり、体重で割って1kgあたりにしたものが単位として使われる。VO2maxとは被験者が最大限に運動したときに出される数値を言う。VO2maxが高いということは、心肺能力が高い、つまり有酸素運動能力が高く持久力があることを示す。ただ、1960年代にはVO2maxを測ることは困難であり、研究施設内で多くの研究員と機器を用いての測定が必要であった。

このような状況で、同時に多人数のVO2maxを推測するためのいくつかのフィールドテストが開発され、そのうちの一つがクーパーテストであった。



クーパーテストは、1968年にケネス・クーパー博士によって開発された。クーパー博士はアメリカ空軍において軍隊員の持久力およびVO2maxの概算に携わっており、研究施設内で測定されたVO2maxと12分間のランニング(必要な場合はウォーキングの距離も含む)で達成した距離との相関関係を示したのである。

クーパーテストは非常にシンプルで被験者に12分間陸上トラックをランニングさせ、12分の時点での総移動距離を測る。そしてこの距離から被験者それぞれのVO2maxの概算予測が可能という。端的な概算例としては12分間で2マイル(訳者注:1マイルは1609メートルほど)を走りきる選手のVO2maxは60ml/kg/minほどとされている。

この原型ともいえる初期のクーパーテストは様々なフィットネスレベルにある多くの被験者のVO2maxを容易に概算するために開発された。そしてこの時期の実験や研究をもとに持久力との相対表が作られ、例えば1.25-1.49マイル(訳者注:約2010m~約2400m)という距離からは「通常レベル」の持久力を持つと判断される、のように利用された。テスト結果は心肺能力の指標としてその後の変化を観察するツールであると理解されていた。というのも研究施設での測定と違いフィールドテストには若干の誤差があり、正確なVO2maxを示す意味合いは無く、あくまでもフィットネスレベルの「概算」の域をでなかったのである。


それから8年後1976年にクーパー博士の研究グループはプロサッカー選手達の身体能力の特徴のレポートのためにクーパーテストを測定ツールの一つとして実施した。なお、この研究には北米サッカーリーグ(当時)のダラストルネードSCの選手が被験者として参加した。

テストの結果は、ダラスSCの選手達の平均VO2maxは58.4ml/kg/minであり、また、12分間の間に平均1.86マイル(訳者注:約2990m)の距離を走っていた。

つまり、このレポートによって平均的なプロサッカー選手のVO2maxはおよそ60ml/kg/minであり、12分間に約2マイル走ることができるということが示されたのである。

ところで、どのように12分でどれほどの距離を走れるか、という初期のテスト形式から、現在の2マイルを何分で走ることができるか、という形式に移行したのだろうか? これにはクーパーテストが元々は軍隊関係者そしてその後一般市民を対象に実施されていたことが関係する。こういった被験者の中には2マイルのランニングとウォーキングすら達成できない体力状態の人たちもいた。このため、12分間でどのぐらいの距離を移動できるかという方法が理にかなっていたのである。

そして1984年にアメリカ陸軍の研究グループが初期のテスト方法を裏返し、走る距離ではなくタイムを結果として採用することとした。彼らは2マイルの完走タイムと研究施設で出されたVO2maxの関係性を調査し、その緊切さを確認した。

なお、やはり59.5ml/kg/minという数値が2マイルを12分間で走りきった際の推測値とされている。


繰り返しになるが、サッカーというスポーツをするうえで持久力の重要さに疑問の余地はないだろう。選手達は1試合のうちに6マイル(約10km)以上を走ることもある。より持久力のある選手は試合の前後半の終わり際により良いパフォーマンスを発揮できることはあきらかであり、体力は良いパフォーマンスの絶対条件ではある。

しかし一体どのように「2マイルを12分間で完走すること」がサッカーにおける持久力の証明書のようになったのだろうか。

一つの理由として挙げられるのは先述した、初期の研究がダラス・トルネードSCで実施されたということだろう。このチームの平均VO2maxは60ml/kg/minであり、およそ2マイルを12分で走りきっていた。さらに、その後高名なサッカー研究者トム・ライリー氏もプロ選手にはやはり60ml/kg/min以上のVO2maxが必要されていると提言した。このような状況の中でサッカー選手たちがVO2maxが60以上かどうかを測定し始めたのは理にかなっているだろう。そしてクーパーテストに参加し、2マイルを12分間以内に走りきればそのレベルを達成していると判断される。
 

さて、クーパーテストはどのくらい正確なのだろう?そしてこの12分という「壁」にどれほどの重要さを見出すべきなのだろうか?実はこのテストをサッカーフィットネスにおける証明書のように考えることにはいくつかの問題がある。

まず、ライリー氏のVO2maxを60ml/kg/minが少し値として高すぎるということだ。1970年台からプロサッカー選手の平均値はゆっくりとだが上昇している。しかし「平均値」がやはり60ほどであり、トッププロの値は50~70ほどなのである。このためたとえVO2maxが60よりも少し低くても、また2マイルのタイムが12分を多少オーバーしていてもそのこと自体が選手の能力を否定することにはならない。

次に、フィットネスにおいてフィールドテストでは全てその推測値と実際の値には誤差が生じ、ほとんどのフィールドテスト結果が実際のVO2maxの±10%の範囲内にあるとされている。クーパー博士の元のデータでも2マイルを12分で走りきった選手のVO2maxは54~66ml/kg/minの範囲内とされているのだ。

さらには、12分間の走力、そして60ml/kg/minという数字は男子プロサッカー選手を対象として基準が作られたものである。このため女子選手や育成年代の選手に同様の数値を求めるのは現実的でない。

最後に、クーパーテストは「試合用の体力」を測る最良のものではない。このテストでは12分間ほぼ変わらないペースで走り続けることが求められている。しかし、サッカーの試合ではこのような状況は決して起こらない。選手はジョギング、ダッシュ、ストップを繰り返し、さらに幾度と無く方向転換を行う。このため、これまでにいくつものサッカーに特化したともいえるフィットネステストが開発されてきた。ヨーヨーリカバリーテストや反復スプリントテスト、さらにはホフテスト(訳者注:過去記事こちら参照)などである。そして多くのコーチが実際のサッカーフィットネスを測定するには、ただ走り続けるものよりもこういったテストの方が、より正しい結果を得られると考えている。

 

もちろんクーパーテストも選手評価ツールの一つと言えることは確かである。しかしこのテストでは選手のパフォーマンスの1つの側面を概算・予測するものである、ということを覚えておく必要がある。2マイル走の結果があまりにも悪ければもちろん有酸素運動能力が低いことは明らかだろう。またシーズン中にクーパーテストの結果が急に落ちた場合は、慢性的な故障や病気、さらには成長の過程での疲労など対処するべき問題のシグナルなのかもしれない。さらにシーズン前に「クーパーテストに合格すること」ということ自体が選手達のモチベーションを高めてシーズンへの準備として役立つかもしれない。または練習初日のクーパーテストの結果で、コーチは選手達がどのようにオフシーズンを過ごしていたかを把握できることもある。

しかし、12分を少し切った選手と少しオーバーした選手のフィットネスレベルの差をこのテストから見出すことは不可能である。VO2max概算値の観点からは11分50秒と12分10秒の差はあまりにも小さいのである。

 

クーパーテストをパフォーマンスチェックのツールに利用できる分野があることは確かだ。しかし、コーチ達はその限界を理解したうえで、もともと開発された際のねらいとされた、心肺能力の大まかな把握を目的として利用することが重要なのである。

(了)

 

References

Cooper KH (1968) A means of assessing maximal oxygen intake, Journal of the American Medical Association, 203: 135-138. 

Mello RP, Murphy MM, Vogel JA (1984) Relationship between the Army Two Mile Run Test and maximal oxygen uptake. Technical Report, Army Medical Research and Development Command. Accession No. ADA15394.

Raven PB, Gettman LR, Pollock ML, Cooper KH (1976) British Journal of Sports Medicine, 10: 209-216.

Reilly T, Doran D (2003) Fitness assessment, in: Science and Soccer (2nd edition), Reilly T, Williams MA (eds), Routledge, New York, pp 21-46. 

Thanks to Jeremy Williams for helping with this article.

Note: Dr. Kenneth Cooper, the “Father of Aerobics” later founded the Institute for Aerobics Research in Dallas, TX. He also authored two books, Aerobics and The Aerobics Way that emphasize the importance of cardiovascular fitness as part of a healthy lifestyle. He is considered one of the true pioneers in the area of aerobic fitness, exercise training and disease prevention. Many credit him and his books with the fitness boom that swept the US in the 1970s.

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Tags: リサーチ  コーチの心構え  
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Posted: 2013年08月25日 18:54

Reference: How Did The Cooper Test Become a Part of Soccer?

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