ユーロ2012 決勝戦レビュー スペイン-イタリア(4-0) 下

サッカーの戦術分析サイトのユーロ2012決勝レビュー後編です!


前編からの続きです。

 

スペインの両サイドバック

 

中盤がこの試合での1つ目の注目ポイントだったとすると、2つ目はスペインのサイドバック付近のエリアだろう。

この部分でもデル・ボスケ監督の率いるスペインがその優勢さを示していた。フォーメーション図からわかるとおり、キックオフ時点でスペインの両サイドバック、アルベロアとジョルディ・アルバが完全にフリーとなっていた。そしてさらに時間がたちイタリアのハーフ陣がプレスに奔走し逆にまとまりが悪くなると、それまで以上に両選手へのパスが効果的になってしまった。

イタリアのデ・ロッシが中にいるピルロをサポートするためより内側へより低くポジションを取らざるをえなかったことで、アルベロアには直接マークをする選手がおらず、大きなスペースが与えられた。

アルベロアが攻撃的なポジショニングを取っていたため、確かに時間帯によってはアントニオ・カッサーノが背後のスペースを狙い、またピケとの1vs1を仕掛けられる場面があった(ピケは後ろからのカッサーノへのタックルで警告を受けることとなった。)。

それでも大会を通じて彼が高いポジショニングを取ることで、スペイン代表は長いボールでサイドチェンジし、攻撃の方向を変えることを可能にしていた。

この試合ではこういったロングパスに応じてイタリアが横方向へのポジション修正を余儀なくされ、その間隙をついてスペインMFがボールを前に進めていた。特に先制点のシーンはとても良い例で、シルバのゴールがシャビ・アロンソのロングパスの後に生まれている。

逆サイドのアルバはより外に位置取ったイタリアMFマルチジオから比較的強いプレッシャーを受けていたといえる。

それでも来期FCバルセロナ入団の決まったアルバはボールを持ったときにより相手にとって驚異的なプレーを披露していた。彼の縦への突破力とその貢献度を評価して、専門家の中にはアルバこそが今大会におけるスペインの最も重要なプレーヤーだったと言う人もいるほどである。

確かにスペインの2点目は彼がいなければ生まれなかっただろう。彼がシュートを放ったということではなく、3人ものイタリアDFは置き去りにしてシャビからのパスを受けた際に見せた爆発的なスピードのフリーランニングこそ注目に値する。スペインチームの中でもこれほどの動きができる選手はいないだろう。このスピードと即時性こそがスペインのティキ・タカスタイル(Wikipedia参照)の重要な構成要素なのである。

どうしようもなかったイタリア

この試合ではスペインの出来の良さこそがイタリアの低調なパフォーマンスよりも重要なファクターだっただろう。しかし、プランデッリ監督のイタリア代表の一体どこがうまく機能しなかったのだろうか。

2つのポイントが挙げられる。1つ目は中盤をボール支配率と選手の動きの両方で完全に制圧されてしまったこと。そして2つ目はピルロがプレスに曝され、効果的なボールをタイミングよく前へ出せなかったことと言える。

良かった点から見てみよう。イタリアのチャンスはサイドバックのオーバーラップから創りだされていた。アバーテとキエッリーニの縦へのプレーはある程度効果的だった。そしてキエッリーニが故障でバルザレッティと交代しても、それがさして悪影響を及ぼすこともなかった。バルザレッティは左サイドをより積極的にかけ上がり、一時は結局スペインGKカシージャスにセーブされたものの、バロテッリをめがけた素晴らしいクロスも披露した。

結果がでてから論じるのはいつもたやすいことだが、プランデッリ監督はバルザレッティ出場のタイミングで3-5-2のフォーメーションを採用するべきだったのかもしれない。3-5-2はもちろんグループステージでのスペイン戦でイタリアが採用したものでだった。

決勝戦でもデ・ロッシがポジションを下げてセンターバックのような位置でプレーすることが多かったのだからなおさらである。(グループステージではデ・ロッシは最初から3枚目のセンターバックとして出場していた。またアバーテとバルザレッティがより前方に配置されるため、アルバとアルベロアのスペインウイングバックをせき止められたかもしれない。

もちろん3-5-2に変更したところでスペインの勝利が揺るぐことも無かったのだろうが、試合前にプランデッリがコメントしたように3-5-2へのシフトが可能だったのなら、一度それを試してみて、スペイン選手やデル・ボスケ監督を少しでも悩ませてもよかったのではないだろうか。

イタリアの選手交代

得点が2-0となった時点でプランデッリ監督には動く必要を迫られた。ここでのこの試合2人目の交代(アントニオ・ディ・ナターレがカッサーノに代わり出場)は賢明で理論的な選択だったと言えるだろう。グループステージのスペイン戦での先制点を決めたナターレはスペインのオフサイドラインをかいくぐる使命を与えられていた。後半のイタリアの最大のチャンスを生み出したのは彼である。モントリーボからの素晴らしいパスをスペインのディフェンスラインと同じ位置で受け、スペインのカシージャスを慌てさせる一場面を作った。

しかしプランデッリの最後の交代(1人目は前半中に入ったバルザレッティ)がこの試合を決定付けるものになってしまった。スペインのプレス疲れを見せ始めたモントリーボに変えてモッタが投入された・・・。しかしこともあろうに5分後にそのモッタがハムストリングの故障を訴えピッチを後にしてしまう。

このことに対して監督のプランデッリは批判を受けるべきなのだろうか?そうであるかもしれない・・・・。しかし、監督としては何かアクションを起こす必要があったのだろう、それにこれほど短い時間でのアクシデントは誰も予想だにしていなかった。

10人になってしまったイタリアだが、同時に攻撃の芽を摘む「前線のつぶし屋」を失ってしまった。これにより、イタリアがボールを持つシーンが極端に減ってしまい、同時に試合を盛り返す可能性がたたれてしまった。

数年前にジョゼ・モウリーニョ監督が1人を欠きながらの4-3-2フォーメーションでの戦い方をミランダービーで披露したが、それも相手が前がかりに攻めてくるのが前提条件だった。

 

スペインの選手交代

スペインは大会中、たとえ得点が0-0でもボールポゼッションにこだわりすぎ、前へのボールを出すチャンスがあってもそれを選択しないといった、攻撃的なメンタリティーの欠如が目立っていた。特にデル・ボスケ監督が3人のフォワード選手を試合中にサンティ・カソルラやハビ・マルティネスといったさらにボール回しの得意な選手と変えるときはその色が顕著に出ていた。

ただこの試合では3人の先発フォワードはより攻撃的な選手との交代を告げられた。ペドロ・ロドリゲス、フェルナンド・トーレスそしファン・マタである。

彼らは前線に新たなエネルギーとポジティブなメンタリティーを注入した。トーレスとマタはそれぞれ1点ずつ決め、ペドロはオフサイドポジションではあったものの、後1歩でゴールを決めるところまで迫っていた。イタリアは数的不利により疲れ果てていた。試合は最後の笛がなる、もっと以前に決まっていた。

 

最後に

まとめるとスペインは両サイドのウイングポジションの選手を絞らせ中盤での枚数勝負に臨んだ。そして両サイドバックを前線へ張り出させ、チームのプレーに幅を持たせた。もちろんこれはよく知られたスペインのプレースタイルである。ただそれに加えてこの試合ではハイスピードのパスとイタリア守備陣の裏を狙うフリーランニングが組み合わされた。そのパフェーマンスは止めようが無いほどだった。

まだ試合が11人vs 11人だった時間帯に決められたスペインの2ゴールはそれぞれが異なった状況から生み出されている。シルバの先制点は14本ものパスの後に決められ、アルバの2点目はそこに至るパスの数は4本だけである。さらにシルバのゴールは36秒ものポゼッションの後に決められ、アルバの点はわずか13秒のみである。

決勝でついにスペインは「ボールポゼッションと、リスクを含んだ前線へのパス」の最高のバランスを発見したと言えるのではないだろうか。

スペインのデル・ボスケ監督は先発のフィールドプレーヤー10人のうち前線6人がミッドフィールダーそれに4人のディフェンダーという構成だった、この試合での勝利をことのほか喜んだことだろう。大会前にはスペイン代表は「より典型的なウイングや、直接的なセンターフォワードタイプの選手が必要」と言われていた。決勝戦でのようなチーム構成では勝利は不可能だと思われていたのである。さらにシルバが先制点を挙げたことは、攻撃のバリエーションが少ないと批判されることもある彼を長く信頼し使い続けた監督にとって特にうれしかったことだろう。

もちろん先発メンバーが6人のMFだったといっても、イニエスタとシルバはよりペナルティエリアへ侵入を試み、ファブリガスは何度も守備陣の背後へ走りこんでいた。またサイドからはアルバが彼のベストパフォーマンスでより直接的な効果をもたらしていた。

結局、オフザボールのフリーランニングをディフェンスラインに仕掛けることは必要なことなのである。決勝戦までのスペイン代表チームにはそれが出てこず、そのことから、スペイン代表はこの試合まで「退屈な」プレーぶりだと不公平にも評されていたのだろう。

ただ忘れてはいけないのは、スペインの決勝前のプレーに落胆していた人々とは「早いパス回しと、前線での崩しをみせる、そんなスペイン代表がみたい」という大きな期待感を持っていたことということである。

スペインはただのティキ・タカスタイル以上のことができるはずだと期待され、そしてスペインはこの試合でそれを証明してみせた。

国際大会の決勝の舞台でのこれほどまでのパフォーマンスはいままでもそして今後もなかなか見ることができないだろう。

 

スペインの美しい1つ1つのプレーが彼らのサッカースタイルを形作っていた。そんな中でスペインの最初の2点がスペインに栄冠をもたらした。人は1970年のワールドカップチャンピオンブラジルが大会を通じてどのようなプレーを披露していたかは覚えていないだろう。しかしだれもがカルロス・アルベルトのゴールを思い出せるはずだ。そして今ではそれがブラジルの素晴らしさを象徴している。同様にシルバとアルバのゴールはスペインを象徴するゴールとなったのだ。

デル・ボスケ監督が以前語ったように、「近年のスペイン代表の躍進・成功には様々な要因があるだろう、われわれのサッカーのシステム、アカデミー組織、そしてよりよいコーチたちの存在などがその要因である」

スペイン代表が奪った最初の2点は2012年大会におけるスペイン代表のパフォーマンスを正しく凝縮したものではないかもしれない、しかしそれ以上にスペインのプレースタイル「ティキ・タカ」を美しく象徴しているのである。(了)

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Tags: データ  リサーチ  
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Posted: 2017年02月16日 23:15

Reference: Spain 4-0 Italy: Spain win Euro 2012

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